第9回:『ぼくの伯父さんの休暇』 ジャック・タチ監督 1953年


 今まで映画を観て一番笑ったのはこれです。コメディ映画の名匠ジャック・タチ監督の快作です。

 タチ自身が扮する主人公「ユロおじさん」が、海辺の町にバカンスにやってきて、帰る。それだけです。そんなもの、ほとんどストーリーとはいえません。タチの映画ってストーリーがないんですよ。特にこの映画にはありません。約90分間の多くを、観客を笑わせることに費やします。監督がいいたいこととか、テーマとか、そんなものを探そうとしても無駄です。もう笑うしかない。これを観た時、自分が今まで観た映画はなんだったんだと思いましたよ。

 ユロおじさんは、ほとんど言葉を発さず、始終落ち着きなく動き回りながら、無自覚のうちに様々な騒動を引き起こします。悪気は一切ありません。周囲の人たちはその騒動に巻き込まれて、時々ひどい目に遭う人もでてきます。しかし文句を言う人はいません。それどころか、どこかあきらめているかのようです。例えば、ドリフのコントで、志村けんか誰かがムチャクチャやって、最後にいかりや長介が、怒らないで、「だめだこりゃ」って言って終わりますよね。あれに近いかもしれませんね。ムチャクチャな奴のせいで受難した人が、怒るのを通り越して、呆れるというか、あきらめる。そこで笑いが生まれるわけです。ユロおじさんのせいで受難した人も(ユロおじさんのせいだと知らない場合も多いですけど)、みんな心の中では「だめだこりゃ」って思ってるわけです。

 1967年に公開された『プレイタイム』は、多額の資金(ジャック・タチ映画祭ウェブサイトによると15億フラン、当時の為替レートに換算して約1093億円)を投入したタチの代表作です。この映画のために、セットになる街を丸ごと作ったというのですから、タチの力の入れようが分かります。フランス映画史上屈指の大作(この場合、金がかかっているという意味です)といわれるこの映画は、しかし興行的には失敗し、のちにタチを破産に追い込むことになったとのこと。今では、『プレイタイム』を高く評価する人はたくさんいますが、残念ながら、私には何が面白いのか、いまいち理解できませんでした。それがタチのせいなのか、私のせいなのか分かりませんけど。私が、タチの映画のなかで一番いいと思うのは、『ぼくの伯父さんの休暇』です。

 ところで、タチの映画で、あれは何でしたっけ。郵便配達の人が、配達用のバイクでジャンプして火の輪っかをくぐる練習をするという。配達にそんな技術必要ねえだろっていう話なんですけど。なんていう映画だったか忘れましたけど、あれもおかしかったですね。



村木豊
(2017年5月1日掲載)


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