第3回:『オリ・マキの人生で最も幸せな日』 ユホ・クオスマネン監督 2016年


 渋谷のユーロスペースで開催されたトーキョーノーザンライツフェスティバル2017で上映された映画です。東京国際映画祭でも上映されてたみたいですね。カンヌで賞もとっていますし、これから日本でも劇場公開されるかも知れません。

 舞台は1962年のフィンランドです。実在のボクサーをモデルにしたという主人公のオリ・マキは、国の英雄的ボクサーであり、アメリカからチャンピオンがやってきて国中が注目するタイトルマッチを何週間後かに行うことになっています。そんな折、唐突に恋に落ちます。

 一所懸命練習して、作戦も立てて、最強の相手と死闘を演じるスポ根映画にすることもできたでしょう。あるいは絶対勝つからとか女に約束して、それをきっかけに一層奮闘するといったストーリーにもできたでしょう。そういうカッコいい話にもなりそうですが、この映画はその罠には落ちません。

 なんだか、強いのか弱いのか分からないような主人公が、気合入ってんのかそうでもないのか分からないような練習をしています。急に恋に落ちても、女のことが頭から離れなくなってボクシングどころではなくなる、という感じでもありません。会見でも、絶対KOするとか、大口をたたいたせず、戦うだけですとか言ってます。あくまでも自然体です。この「ハズした」感じは、同じフィンランドのアキ・カウリスマキ監督みたいじゃないですか。

 実力以上の虚勢を張るのはついやりがちです。それに対し、自然体でいるのは難しいことです。オリ・マキは、もがきつつも常に自然体でいようとします。それが、国民やスポンサーの期待というプレッシャーをかいくぐりつつ試合に臨むための、ひとつの方法なわけですね。

 おおらかな性格の彼女も、なんかいいですね。トレーナーも口うるさいんだけど、そこまでやな奴っていうわけでもない。アメリカから来たチャンピオンも紳士的だ。悪い奴一人も出てこないんですよ。主人公も含めてみんな王道から「ハズれた」感じ。新鮮だな。



村木豊
(2017年3月13日掲載)


戻る

当ウェブサイトに掲載されている記事や画像の無断転載・転用を固く禁じます。
Operated by 株式会社池田企画