第25回:『シチリア!』 ストローブ=ユイレ監督 1999年


 ストローブ=ユイレ監督の『シチリア!』が、DVD屋で安売りしていたので、買ってきて見る。

 15年ぶりに故郷シチリアに帰ってきた男が、母親やそのほかの人物とひたすら会話をするという、ただそれだけの映画なんですけど、変わっているのは、出演者が、セリフをしゃべったり、例外的な動きをする以外、表情も変わらないし、ほとんど微動だにしないという点です。それはもう「だるまさんがころんだ」状態であり、DVDプレイヤーが壊れたかと思ったくらいです。ストローブ=ユイレは、(ほかの監督作品では知りませんが)出演者に普通の演技を許していないかのようですね。

 なぜ普通の演技をさせないのか? 出演者は演技ができないのでしょうか。だとしても、ここまで徹底的にフリーズさせるのはやりすぎのような気がします。ほかに演技をさせない理由として考えられそうのは、私の勝手な想像ですけど、演技を見せるということのわざとらしさをストローブ=ユイレが嫌ったという可能性です。それだったら何となく腑に落ちます。演技というのは、どんなに上手でも結局嘘です。嘘をつくくらいだったら、フリーズしていたほうがいいとストローブ=ユイレは考えたかもしれません。とにかく、この映画を見ていると、演技なんて見せないというストローブ=ユイレの強い意志を感じるのです。演技派俳優が出てくる普通の映画とは違うのです。

 まあ、演技がわざとらしい嘘だというのなら、そもそも映画自体も嘘なんですけどね。ストローブ=ユイレがそんなことを考えていたのかどうかは知りません(知りませんとか、想像ですとかばっかりですけど)。ただ、少なくとも、既存の表現方法に疑問を抱いていなければ、こういう映画は撮らないだろうと思います。

 私は昔、『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』という映画をどこかで見た時に、ちょっとよく分からなくて、それ以来ストローブ=ユイレの映画が上映されていても敬遠していたのですが、『シチリア!』を見て、なぜストローブ=ユイレが映画界で高く評価されている(いるのです)のか、その理由がほんの少しだけ分かったような気がしました。それは何かと聞かれても、うまくいえませんけど。ちょうど、今年の12月から、アテネ・フランセ文化センターで、ストローブ=ユイレの特集をやるみたいですから、今度は見に行ってみようと思います。


村木豊
(2017年10月2日掲載)



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