第1回:『トロピカル・マラディ』 アピチャッポン・ウィーラセタクン監督 2004年


 2016〜2017年にかけて、渋谷のシアターイメージフォーラムで、二度にわたり開催されたアピチャッポン・ウィーラセタクン監督のレトロスペクティブは、連日大盛況だったようです。私もアピチャッポン監督の映画をけっこう観ていますが、ただ、内容をどれもよく理解できませんでした。そういう人は、多分、私だけではないと思います。

 アピチャッポン監督は、『ブンミおじさんの森』でカンヌ国際映画祭のパルムドール大賞を受賞しています。カンヌ国際映画祭は、作家性を重視する傾向があるといわれています。エンターテインメント性ではありません。でも作家性って何でしょうか。いまいちよく分かりませんね。作家性が強い人というのは、商業的に成功するかどうかはともかく、自分のやりたいことがはっきりしていそうです。どうでもいいですかね。アピチャッポン監督は、カンヌに選ばれた超一流映画作家であり、天才といわれることも多い人です。まあ、私はあまりカンヌを信用してないんですけど。

 アピチャッポン監督作品のうちでも屈指の名作『トロピカル・マラディ』も、何の映画かよく分かりません。青年二人のカップルが、いちゃついたり、バイクにノーヘルで二人乗りしたり、立ちションして、洗ってないその手を舐めあったりしています。汚いですね。

 私は映画館でそれを観ながら、内心、早く終わんないかなと思って腕時計をちらちら見たりしていました。なら帰ればいいだろ、と思うかもしれませんが、ファンというのは困ったもので、しんどくても、「何かある」かもしれないから最後まで観なければいけないという強迫観念をしばしば持ちます。私もこの時、アピチャッポンだから何かあると思って、我慢して観ていたわけです。

 そしたら、しばらくして急に画面が変わって、何かタイトルらしき字幕が出てきます。突然別の映画に切り替わるのです。ジャングルの中で、迷彩服を着た兵士が、一丁の銃を持って彷徨っています。そこへ虎の霊(裸の男の姿をしています)が出てきて、なぜか兵士を追いかけまわして攻撃してきます。兵士は銃で虎の霊と戦うわけです。銃弾で霊を倒せるのか知りませんが、とにかくわけが分からない。

 でも「何かある」と思ったのは間違いではなかったのです。このわけが分からない映画をどうやって終わらせる気だと思って、だんだん目が離せなくなります。アピチャッポン監督の他の作品も、観ているうちに、なんとなく目が離せなくなるところがあります。そういうところがアピチャッポン監督が天才といわれる理由かもしれませんが、よく分かりません。


村木豊
(2017年2月27日掲載)


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