第18回:『ドント・ブリーズ』 フェデ・アルバレス監督 2016年


 恐怖映画に出てくるモンスターは、おそろしく強くても、どこか弱点があったりしますよね。太陽に当たると死んでしまうドラキュラもそうですし、タランティーノが褒めたというあのおそろしい『イット・フォローズ』に出てくる「イット」も走ることはできません。ゾンビだってゆっくり歩いて近づいてきます。

 なぜ弱点があるのか? それは主人公たちに逃げる機会、あるいは勝機を与えるためです。一瞬で捕まって殺されてしまっては仕方ありませんが、もしかしたら逃げ切れるかもしれない、勝って生きて帰れるかもしれないというかすかな望みがあると、映画の主人公としては逃げなければいけません。あるいは戦わなければいけません。その余裕がちょっとだけあると、かえって怖いのです。映画を観る側の心の中に、恐怖がじわじわと広がっていきます。

『ドント・ブリーズ』の主人公たちは、日々、細かい窃盗を繰り返しているらしき3人組で、女の子と悪そうな男、あとちょっと気の弱そうな男がいます。ある時、戦場で視力を失った退役軍人のお爺さんが、大金を家に隠し持っているとの情報を入手し、夜中にそのお爺さんが住む一軒家に3人で侵入します。そこまではいいのですが(よくないか)、問題は、そのお爺さんがめちゃくちゃ強いということです。ただし、お爺さんは目が見えないという弱点をもっているので、主人公たちもなかなか捕まることはありません。

 主人公グループのひとりがお爺さんと廊下ですれ違う時に、お爺さんとぶつからないように、壁に背中をくっつけて道を開け、タイトル通り「息を殺して」、なんとかやり過ごします。ギリギリお爺さんには気づかれません。非常に怖いです。怖がったり逃げたりするだけの余裕がちょっとだけあるからです。

 お爺さんも言葉を話します(当たり前ですけど)。自分の身に何が起こったか、これからどうするつもりか話しだします。それがまたえげつない。主人公たちをやっつけるだけじゃなく、さらなるえげつない欲望を持っていたのです。そのへんがゾンビと違って不気味なところですね。



村木豊
(2017年7月10日掲載)



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