第17回:『光』 河P直美監督 2017年


 正直に言わなければなりませんが、男が女の人を好きになるときに、「見た目」というのは重要です。それがすべてではありませんが、結構なウェイトを占めています。街できれいな女の人を見かけた時に、私もいい歳なので(?)、あまり見ないようにはするのですが、それでもやっぱり目がいってしまう。それが男の悲しいというかしょうもない本能なのです。

 しかし、この映画の主人公の一人で、かつての天才カメラマン・雅哉(永瀬正敏)は、今やほとんど目が見えません。それで、視覚障害者向けの映画の音声ガイドをチェックするモニターをやっている。その打ち合わせの場で、音声ガイドを作成しているもう一人の主人公・美佐子(水崎綾女)と出会います。美佐子は雅哉に「その音声ガイドじゃ、邪魔なだけだ」みたいに言われ、最初はイラっとするのですが、彼のカメラマンだった過去とその作品を知って、感銘を受けます。その後、美佐子が用事で雅哉の家に行ったときに、二人で食事をして、ちょっといい雰囲気になる。この孤独で目の見えないかつての天才カメラマンのことを、美佐子は次第に気にし始めるのです。

 ある時、雅哉は、他人のゲロで滑って転んだスキに、大事にしていたカメラをさっきまで一緒にいたカメラマン仲間にパクられてしまいます。雅哉は、そいつの所へ乗り込んでいって、強引にカメラを奪い返しますが、「もうやめなよ」とか、自分でも分かっていることを言われます。自分にはもう何もない。目も見えなければ写真も撮れない。どん底の気分で夜道に立ち尽くしているところへ、美佐子が現れる。手を取り合う二人。そこで雅哉は美佐子に言うのです。「顔を触らせてくれないか」と。

 こんなにも正直で、切実なお願いがあるでしょうか。雅哉は、今や唯一の救いである彼女が、どんな「見た目」なのか知りたいのです。しかし、見ることは叶わない。せめて触って確かめたい。美佐子は雅哉に両手で顔を触らせます。そのエロスの「届かない」感じがつらい。

 今まで見えていたものがだんだん見えなくなるというのは、かなりの苦しみでしょう。写真が撮れなくなる。それはしょうがない。いっぱい撮ったし、名声も手にしたから諦めてもいい。女の人を見ることができなくなる。それもしょうがないのですが、ちょっとキツいかもしれませんね。身も蓋もない話ですけど、切実なんだと思います。



村木豊
(2017年6月26日掲載)



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