第15回:『ろんぐ・ぐっどばい 〜探偵古井栗之助〜』 いまおかしんじ監督 2017年


 いまおかしんじ監督の映画は明るい。観ていると、落ち込んだりするのが馬鹿らしくなってきます。たまに落ち込むのは避けられませんが、毎日だとしんどいです。

 新作『ろんぐ・ぐっどばい 〜探偵古井栗之助〜』も、とにかく明るい映画です。レイモンド・チャンドラーの小説がどんな内容だったかはっきり思い出せませんが。病院の診察室で、何か色っぽい恰好をした女医のゆかり(手塚真生)に、HIVに感染していることを告げられた古井栗之助(森岡龍)は、スリッパでゆかりの頭をひっぱたきます。二人は過去に付き合っていたらしい。お前にうつされたと主張する古井。あんたにうつされた可能性もあると言うゆかり。彼らの表情に悲壮感はないのです。ゆかりは、親切にも、自分が過去に関係を持った男たちに、HIVに感染しているかもしれないから検査を受けろと言いに行きます。相手に逆上されるかもしれないから、古井をボディーガードとして雇います。ある強面の男はショックで崩れ落ちます。「エイズくらいで落ち込むんじゃねえよ」みたいな、すごいセリフを吐く古井。HIVに感染しているという設定は、古井たちの「明るさ」を強調するための装置なのです。

 豪気にも治療を拒否した古井は、謎のゲロを吐きながらも、探偵業に精を出します。自殺した女が、生前に持ち逃げした大金はどこに消えたか調べろという依頼。古井は、女が自殺したとされる部屋で生活しながら真相を追い、ヤバい目にも遭うのですが、やはり悲壮感はないのです。自殺とか、怨恨とかそういう暗い話も、古井の「明るさ」を隠すことはできない。むしろ、そういう「暗さ」のなかで際立つようにできています。

 弱音を吐かない、嘆かないといった「明るさ」が、この映画をエンターテインメントたらしめているのです。自分の抱えている悩みが、彼らに比べると、ちっぽけなもののように思えてしまう。それで、観客はなんとなく気が大きくなります。ただし、この映画の「明るさ」は、おそらく仕組まれたものであるということは指摘しておかねばなりません。嘘のような、過剰な「明るさ」です。落ち込むところを見せたくないから、わざと明るく振る舞うユーモアです。自分の映画のキャラクターは、ちょっとくらいの「暗いこと」では動じない(少なくともそういうふりをする)というのが、いまおか監督の方針なのでしょう。ハードボイルドですね。

 ところで、ネットでいまおか監督のことを調べていたら、私の知らないいまおか監督作品がけっこうありました。オークラでやってたのか。『感じるつちんこ ヤリ放題!』は観たかったです。


村木豊
(2017年6月12日掲載)



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