第10回:『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』 リチャード・リンクレイター監督 2016年


 リチャード・リンクレイター監督の名を、寡聞にして知りませんでした。ネットで調べたら、『スクール・オブ・ロック』(どんな映画か忘れてしまいましたけど)の人ですね。早稲田松竹で最新作『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』(ともう一本『スラッカー』)を上映するというので観に行く(もうずいぶん前の話ですが)。

 舞台は1980年のアメリカのテキサスです。主人公のジェイクは大学入学を直前に控えています。高校時代は野球のスタープレイヤーで、大学でも野球をやるつもりです。それで、野球部の寮に入る。新学期が始まるまで何日かあるので、その間、寮の皆でナンパしたり、ディスコみたいな所に行ったりして遊びます。いつ野球やるんだよ、と観ている側としては思うわけですが。

 ジェイクは年頃の男の子にありがちな性的なコンプレックスとか、自信のなさとかには無縁です。実に堂々としています。例えば、ブサイクで卑屈で女の子にも全然モテなくて、さらに周りには不良がたくさんいて、暴力沙汰はあるは、死人は出るは、そういう要素がある話のほうが、私としては慣れているわけです。ですから、ちょっとくらいの暴力シーンでは驚かなくなってしまっています。でもこの映画はそれがありません。ただの普通の男の子の、幸せな青春時代のひと時の話なんですよ。だから、ちょっと意表を突かれました。私がそういう映画を他にあまり知らないからでしょうか。

 争いとか恋人との別れなどをテーマに扱った青春映画はたくさんあります。しかしこの映画は、そういう血なま臭さや哀しみとは一線を画しています。そのうえで、主人公の瑞々しい感情を丁寧に表現し、それで観客の共感を得るのです。素晴らしかった青春時代(そうじゃなかった人もいるでしょうけど)を思い出させるのです。ちょっとジェイクが羨ましくなります。リンクレイター監督がこの映画でやりたかったエンターテインメントとはそういうものなのだろうと思いました。

 ちなみに『スラッカー』は、リンクレイター監督の長編第二作目だそうですが、不穏な空気の立ち込める変な映画でした。



村木豊
(2017年5月8日掲載)


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